連載第2回


金子きよ子


身近なところにいらっしゃる素敵な方々にインタビューし、様々な人の生きる姿を通して、生きることのかけがえのなさをお伝えしていきます。



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第1回 日向夏

第2回 豊田健一

2011.9.28

 



■社内報との出会い

 その後、株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーションに転職し、『月刊総務』で原稿を書くうち、社内報情報誌『月刊コミサポ』の創刊を手伝ったことをきっかけに社内報業務にも関わるようになった。これが現在までつながる豊田さんと社内報との出会いだった。
「『月刊コミサポ』を手伝ったこともあって、ぽつぽつ社内報の営業にも同行するようになったんです。でも、社内報制作に実際に携わったことがないから営業に行ってもどうも分からないし、共感を得られない。それで怖かったけど、おっかなびっくり造船会社の社内報制作を手がけてみて、それからどっぷり社内報の世界に入っていきましたね。社内報の営業にとどまらず、社内報コンサルタント的なことや、事務局的役割も含め、社内報にどっぷりつかって7〜8年やっていました」。

 現在、豊田さんは株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーションから一般社団法人組織内コミュニケーション協会に転職し、社内報にとどまらない組織内コミュニケーションの活性化に向けた研究や提言を行っている。
 今のキャリアの出発点は、株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーションで経験した社内報の仕事が大きかったという。なぜ社内報だったのだろうか。
「リクルートの時は1年毎に異動でしょ?長い部でどっぷりやったことがないんです。もちろん、営業のことも管理部門のことも、どちらもわかって話ができるという面ではとても良かったんですが、専門家ではないんです。社内報に7〜8年、これほど長く仕事をしたのが初めての経験だったんです。そうすると、嫌でも専門家になってくる。これは楽しいですよ。一番乗っていたときは、『俺より社内報のこと知ってるやつはいないだろ』って感じで営業にいくわけですよ。(笑)質問があっても答えられないことがないんです。これだけの財産があったから、これはどうしても生かしたいということで、今に至るわけですよ」。

 また、一方でこんな思いもある。
「今、社内報なり社内コミュニケーションなりをどっちも体系的に語れる専門家が正直世の中にいないので、このニッチな世界の中でなら専門家になれるかなと」。
 しかし、ここに至った最大の理由は、あるとき、“勘所”をつかんだことも大きかったという。
「社内報の営業をやっていて、あるとき、どんな質問がきても全然怖くなくなった、全部答えられるようになったんです。それは『そもそも何だっけ?』ということなんです」。



■ そもそも何だっけ?

 ここに実は今も豊田さんを根底から支える肝がある。
「そもそも何だっけ?これってリクルートにいたときに原点があると思うんです。リクルートでは先輩とか上司に『そもそもお前は何がしたいの?だから何?会社はいいから、お前はどうなんだ』っていう想いの部分をつきつめられるんですよ。それは会社であっても同じだと思うんですよ。そもそもなんで会社って存在するか、そもそもなんでこの会社なんだっけ、経営者としてどういう想いでこの会社をつくったのか。そういった想いに会えば、あ、こういうことがやりたかったんだって社員もワクワクしながら仕事ができるじゃないですか」。

 まずは想いがあって、それを誰に伝えるかによって、その人に合ったコンテンツをつくっていけばいい。この確信を得たことが、豊田さんにとって、揺るぎない自信につながっていった。
「社内報はあくまでもツールなんです。何のツールかというと、社長がどんな想いをもっているか、そもそも何がやりたいかということを、社員に伝えて共感してもらうツール。それが明確になれば、社内報だろが、Web社内報だろが、ツールはなんでもいいんですよ」。

 そして、これはコミュニケーションに関しても相通ずるものがあると豊田さんはいう。
「この『そもそも』というのは突き詰めていくと、どの世界でも、誰でも 活用できます。ただ、ぼくは社内報のキャリアと実績と人脈があるからここにいる。やっと社内報という居場所を見つけたという感じですかね」。



■自分で体系だって何かをつくりあげたい

 最後に豊田さんにご自身を支える原動力について聞いてみた。
「やっぱり、物を知って勉強するのって楽しいじゃないですか。勉強したことを自分で消化して人前で話す、そういうことをしゃべれるような日々の努力、体系だって世の中に提言するなり、学問として出すようなことをしたい、作り上げてそこで専門家として名を残したいですね。けれど、単に何かになりたいというより、インプットしてアウトプットしてしゃべれる、その楽しさが原動力かもしれないですね」。

 様々な職種、会社を通過していく中で、ふと振り返ると『そもそも自分は何をしたかったんだっけ?』という想いがふわっと浮き上がって人生そのものを形作っていく。豊田さんのお話をお聞きして、働きながら自分の求めているものを掘り出していく、働くこと、すなわち生きることそのものだと感じさせられた。

豊田健一

一般社団法人組織内コミュニケーション協会 専務理事
1965年大阪府豊中市出身
株式会社リクルート社、株式会社魚力、株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーションを経て現在は一般社団法人組織内コミュニケーション協会の専務理事を務める。好きな本;田坂広志著「人生の成功とは何か 最期の一瞬に問われるもの」など多数