連載第1回


okaku tomko


周囲で起きる、もしくは起こったあらゆる事柄をexcavate&write=掘って書き留めていきます。

プロローグ

2011.07.27

01

はじまり

祖父が数十年にわたって書き残した日記が母の実家にある。私が4歳のときに他界。しかし残った家族はよく祖父の思い出話をするため、4年間しかこの世を一緒に過ごさなかったが、私にとって「おじいちゃん」はいつも身近な存在として胸の内に居続けている。数年前、祖父の日記を基にした冊子をつくった。当時通っていた編集の学校で、何か課題を決めて冊子をつくろうとなったのが、そもそものきっかけだ。当時迷える20代であった私。会社を辞め筆一本で生きていくことを決めて、生涯書くことを貫いた祖父の日記を読めば、「迷い」に対する答えが見つかると期待を馳せた。今回、ここでお話しするのは、連載タイトルが「excavate&write(掘って書き留める)」になった経緯。タイトルの源は、冊子をつくったことにある。

祖父の日記は物置の中に眠る。そして物持ちのいい祖母が残した、祖父の手紙や写真、執筆した原稿、原稿が掲載された雑誌などは、とある引出しの中に入っている。日記を基にした冊子をつくるには「情報収集作業」から入らなくてはならなかった。物置から段ボール箱を引っぱり出して日記を取り出したり、引出しを開けて、残された紙から何か面白いものはないかと掘り出す作業が始まった。過ぎ去りし日々のささいな喜び、驚き、感動などがたくさん詰まっていた。「筆跡」は生き物だと思った。明治生まれの祖父の字を読むことは、古文書を読んでいるが如く読みづらい。旧漢字もたくさん出てくるし、字にだってくせがある。しかしそれでも根気よく読んでいると、いつの間にか在りし日々の世界へと引き込まれ、当時の時間が甦る。文字には生命が宿ると思えた。残されたものを掘り起こして書き留める。そんな作業をしているのだと冊子をつくりながら自覚した。

その1年後、冊子を気に入ってくれた知人のお誘いで、冊子をつかって展覧会をした。そしてその数年後の今年、冊子づくりや展覧会がきっかけとなり、とある人から連絡を取りたいとの知らせを受けた。「とある人」は祖父の文筆仲間を父として持つ男性だった。文字やはり生きている。その男性の父は昔、祖父と一緒に本を手掛けただとか。2人はもういないが、残された資料は過去の時間と現在をつなげ広がりを持たす。掘り起こして書き留める。何もそれは過去だけにこだわらず、今いるこの周りを見渡せば、掘り起こして書き留めていきたいと思うことはたくさんあるはず。ちなみに今、先に述べた「迷い」はもう薄れている。